宿代、3日分の小包≪十月二十六日≫ ―邇―荷物が重く、多すぎる。 今日は、不要なものを日本に郵送すべく、小包を作ることのした。 日本に無事到着するかどうかは、神のみぞ知るところだ。 それでも送らなければ、身体がもたない。 シンタグマSQの近くで、文房具やを見つけた。 ガムテープ・・・・・75DR(600円) 紐・・・・・・・・・25DR(200円) 油紙・・・・・・・・9DR(72円) のり・・・・・・・・28DR(224円) ペン・・・・・・・・40DR(320円) 合計・・・・・・・・177DR(1416円) なんと文房具だけで、宿泊費三日分だから驚かされてしまう。 これが現実なのだ。 後でわかった事なのだが、購入したペンは日本製、このペンで記録をつけて いるわけ。 購入の仕方が実に複雑怪奇。 レジが一つで、まず購入したいものを見つけると、店の人に見せる。 すると、店の人がメモ用紙に値段を記入し、品物と渡されたメモ用紙を持っ てレジに行き、料金を支払うのである。 そして、そこで貰った領収書だけを持って(品物はその場に置いておく)、出 口近くにあるカウンターに行って、品物を受け取ると言う実にややこしいこ とをしなくてはならない。 どうなってんの? 盗難が多いから? よくわからないが、その国のやり方に従うしかない。 * 二時間ほどかかって、小包を作りあげ、"Post Office"へ持って行く が、どうやら小包専用の”Post Office"があるらしく、教えてくれるのだが なかなか見つけることが出来ないで居ると、親切な地元の人がうろうろして いる俺を見て、案内をかってくれたではないか。 この親切、ただではなさそう。 案内してくれた後、盛んにBarに誘うではないか。 巧みな日本語で話しかけてきて、”俺の事務所が近くにあるから、ちょっと 寄って行かないか?”と誘ってくる。 俺「辞めとくよ。」 彼「Why??」 大げさに、悲しそうに訴えてくる。 俺「I don't like a girl! & I habe a no maney!」 両手を交差させて、何度も断るのだ。 市内を歩いていると、何度も声をかけられる始末。 いつもは少し話をするだけで、笑って別れるのだが、中には大げさに大きな 声をだして、握手を求めてくる野郎も居る。 こうしたギリシャ人が、ここ"Syntagma Sq."には多い。 パースル・ポスト・オフィスと書かれた事務所を、実にわかりにくいところ に見つけることが出来た。 事務所に入ってがっかり。 大金をはたいて買った、紐も紙も・・・・なんとここにはすべてが揃ってい るではないか。 三日分の宿代が、無常にも・・・・なんお意味もなさなかったと言うこと だ。 そして、不幸は続く。 小包を計量すると、5150グラム。 何ということだ、5キログラムを150グラムオーバーしているではないか。 この150グラムがなんとも痛い重さなのである。 5キログラムを境に、料金が全然違ってくるのだ。 今さら苦労して作った荷物を解き、作り変えるという気持ちにもならず、悔 し涙を流しながら料金を支払った。 そして料金は、船便の書留で・・・・・何と437DR(3496円)。 一週間分の宿代が消えていった。 もちろん書留にすると、割高になるのではあるが、無事荷物が日本に到着す る確立が高くなるから仕方がないのだ。 それでも到着すると言う保証が得られないのだから・・・・日本と言う 国のありがたさがわかろうと言うもの。 一週間もの宿代と引き換えに送った小包、無事日本に到着して欲しいと願い ながら支払ったのだ。 日本に到着するのは、二ヵ月後だとか。 船便の悲しさだ。 * 一度部屋に戻ってすぐ、ジョセフ・ハウスを訪ねるが、誰も居らず再 度部屋に逆戻り。 どこで手に入れたか忘れたが、夏目漱石の「行人」と言う本を手にし、夢中 になって読んでいた為か、外が闇に包まれていたことに気づかず、同室のも のが部屋に戻ってきてはじめて、六時近くになっていることに気づき、我を 取り戻し再度ジョセフ・ハウスへ行くことにした。 サーチ・ライトだろうか、・・・・暗闇の中の公園から、鮮やかに遺 跡が浮かび上がっている様を見る事は、一種異様でもあり怪しげな美しさを かもし出していた。 静かな、不気味な公園の散歩も良いものだ。 公園の中に入り込むと、空に輝く星も建物も・・・何も見えなくなってしま う。 それ程高い木が鬱蒼と茂っているのだ。 ただ、今自分が入ってきた入り口と、これから目指す出口だけが小さ な光を放っているように見えるのは、不思議な光景だ。 人の気配を感じると、決まってアベックだ。 潜むようにして、抱き合っている。 この公園は、こうしたアベックと同性愛者たちの夜の営みをずっと見守って きた場所らしい。 * 公園を通り抜け、ジョセフ・ハウスの8号室を訪ねる。 異国の地でこうして、人を訪ねることもこれからは無くなる事だろ う・・・・そう思うと、変に感傷的になっている自分に気がつく。 部屋に入ると、食事が終わった後らしく、食器などがベッドの上に散乱して いた。 もうあの楽しかった日々が、随分と昔のことであるかのように静まりかえっ ていた。 時が止まったような寂しい余韻が漂っている。 夜、八時を過ぎていたが、手紙のことをテッシンから聞いていたの で、会長を訪ねることにした。 手紙は、玲子ちゃんが大使館から取って来てくれたもので、何でも”分厚 い”手紙だったとの事。 現金でも入っているとしたら、なんとも心細い大使館ではないか。 * ドアをノックすると、和智会長の奥さんの声がしてドアが開いた。 部屋に入ると、早速預かってくれていた手紙を渡してくれた。 俺「ありがとうございました。」 夜も遅いので、礼を言って部屋を後にした。 中には、300$(≒9万円)の小切手と、スポーツ新聞が入っていた。 俺「200$と言っていたのに・・・・300$とは・・・ ありがたいことだ。」 新聞は、17日のもので、巨人優勝の記事が大きく報じられていて、異 国の地で見る、日本文字の氾濫に狂喜するのだ。 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|